第10章 抗えない(運命)1時透無一郎
「……手当てなんて真似……どういうつもり?」
刀を構え、口を開けば思ったより低音で。
少年から向けられる殺気はビリビリと肌を刺激した。
猿轡の代わりとなってる鉄の棒を咥えるのをやめ片手に持つ。
『……生きてたから』
「……」
『おかしいですよね……私、鬼なのにっ…人間を襲えないんです』
鬼になってから生きた人間を襲ったことはない。けれども食べてることには変わりないので、人間からしたら憎むべき相手だろう。
「……人間を襲えないってどういうこと?」
『……自分でもわかりません…、ただ、今まで誰一人殺したとはないだけで他の鬼と同様、亡骸ですが頂いてるので…どうぞ』
自ら首を差し出した。
彼に殺されるのは悪くないと思ってしまった。
「…霞の呼吸…壱ノ型…垂天…」
眼を瞑る。せめて一瞬で終わらせてと祈りながら。
だがいくら待っても痛みはおろか、意識が遠退く事はなかった。
がちゃりと刀を鞘に終う音がする。
殺されたのに気づかないだけだろうか?
「…いつまで眼を閉じてるつもり?」
『……え?』
眼を開けば、少年はこちらへと呆れた眼差しを送っていた。
『どうして…?』
「人間を襲ってないみたいだし
殺気感じられない…」
後は気分と付け加えた。
拍子抜けする。
仮にも鬼狩りが鬼を見過ごしていいのだろうか。
「……っ…」
『大丈夫ですか?!』
少年はがくっと立て膝をついた。
無理もない。彼の傷は重症で、普通は俊敏な動きなんて出来ないのだから。
『…変わった鬼狩りさんですね…鬼を目の前にして殺さないなんて』
「…それはお前も同じだろ…敵である僕にこうして手当てなんかして…食べることもしない…チャンスはあったはずなのに」
『…ふふふっ…そうですね
そう言えばまだ名を名乗っていませんでした。私はと申します。鬼狩りさんはなんてお名前なのですか?』
「…僕は時透無一郎」
少年…時透無一郎の気分によって
今回だけ私の首は跳ねられずに済んだのだ。
『時透無一郎…いいお名前ですね…無一郎さんってお呼びしてもいいですか?』
「勝手にすれば…」
『ありがとうございます!』
素っ気ない態度だが、この少年はそういう性格と思いこれ以上気にすることはなかった。