第9章 *極悪非道 時透無一郎
「…疲れた」
玄関を開けると、居間から明かりが漏れ出していた。
いつもは仕事でいないはずの時間なのに…。
不審に思ったけど、仕事を早めに切り上げたのかと思い直しそのまま居間に直行した。
「ただいまー、珍しいね?早かったじゃん」
「…すまない…話があるからそこに座ってくれ」
テーブルの上で両手を組ながら座る父親。
いつもと違う雰囲気に、生唾を飲み込み向かい側の席に座る。
「…には本当に申し訳ないと思っている…」
『どうしたの…?そんな改まって…何かあったの?』
「…お父さん、転勤になったんだ…だから、お前は転校することになる」
戸惑う私に父親は再度謝り手続きは明後日だと伝えた。
急すぎるけど、転勤なら仕方ない。
学園の皆は好きだし、離れたくないけど私はまだ子供で
親がいないとダメなのだから。
その日の会話はそれで終わり、
一日はあっけなく幕を閉じた。
翌日、家を出れば竈門君が迎えに来てくれた。
一緒に登校して、楽しそうに話す竈門君。
転校が決まったこと言わなければいけないのに、なかなか言葉にできずにいた。
そんな私に気にすることもなく面白い話を次々とするものだから
私はつられてふふふと笑うと竈門君はにこりと笑った。
「やっと、笑ってくれたね」
『…え?』
「…あ、いや……、ずっとどこか上の空だったから」
『…あ、ごめんね?…嫌な気分にさせてしまって…』
そんなことないって言う貴方がとても眩しく感じて、それを誤魔化すように腕に抱きついた。
「………」
近くに無一郎が居たなんて知らずに。