第8章 *誘い(いざない)と後悔 時透無一郎
「…霞の呼吸…肆ノ型…移流斬り」
すると、聞き覚えのある声に目を開けば霞が辺りを包んで、その隙間から背中に滅の文字が浮かび上がって見えた。
長い髪がはらりと空気に揺れる。
無一郎だ。
私を庇うように背中を向けて、刀をしまう。
≪…っ嘘つ…≫
鬼は何か言葉を発していたようだが、全て話終える前に砂のようにはらはらと消えていった。
『っ…っむ、無一郎っ…あ、ありがとうっ』
なんて、都合のいい女なのだろうか。
無一郎に助けてもらって安心から涙がポロポロと地面に零れた。
「、帰るよ」
『うんっ…ごめんね』
無一郎に手を引かれ、家に戻る道を歩く。
その道中、二人の間に会話らしい言葉はなく時折私が鼻をすする音がしただけだった。
家につき玄関の錠を開ける。
手は今も繋ぎっぱなしで、ズカズカと足音を立てながら寝室へと向かう。
無一郎は障子を雑に開け
私の手を引っ張り中に入ると布団が1枚既に敷かれていた。
『む、無一郎?』
戸惑う私に無一郎は何も答えなかった。
その代わりに強く手を引っ張られ、バランスを崩した私を布団に放り投げる。
柔らかい衝撃に驚いて、閉じた目を開けば、眼前にせまる無一郎の顔。
「…僕が何も知らないと思ってた?」
『…えっ』
「ねぇ、今のアソコって
アイツの精液で汚れてるんでしょ?」
浅葱色の瞳に見つめられる。
その瞳は霞んでて、感情が読み取れない。
抑揚のない声で言われ今の無一郎は怒ってるのか、悲しんでいるのか
次の言葉をさがすのに必死な私には見当もつかなかった。