第8章 *誘い(いざない)と後悔 時透無一郎
『…ちょっと出掛けてくるね』
「うん」
無一郎は一瞥するも私達の事を気にすることもなく刀の手入れを始めた。
「…お前んとこの彼氏やばいよな」
『うん』
「…なら、俺と一緒になるか?」
『……』
男友達に言われても何も響かない。
何かを言ってる友達の言葉は右耳から左耳へと通り抜ける。
行く宛もなくブラブラしながら
流れでそば屋へ。
食事目的ではなく、そのまま2階へ向い情事の華を咲かせる。
かわいいと口づけする男に私はまるで無機物になったように何も感じなかった。
乱れた服を整えお互い店を出る。
もう空は暗かった。
赤く光る満月が不気味に辺りを照らす
鬼が出る前に帰らないと…
そう思い足早にもと来た道を戻った。
『?!!』
突然何が起こったというのだろうか?
隣にいた男が突然肉塊になって
地面に赤い水溜りができていた。
『っ?!あっ…』
恐怖で声が出ない。
そんな私の前にぬらりと動くのは大きな体に三つの目を持った人間ではないもの。鬼だ。
ギラリと光る鋭い牙と緑色の舌を気持ち悪く動かしニヤリと笑う。
≪うまそうな娘だ…≫
ノロノロと近づいてくる。
ヤバイと本能が告げる。
瞬きをすればいつのまにか目の前にきて大きな口を開けて襲ってきた。
『っヒィ?!(殺される!!)』
死を覚悟した私は目を強く瞑りこれからくるであろう苦痛に震えた。