第8章 *誘い(いざない)と後悔 時透無一郎
寂しさに耐えきれず、目の前の甘い誘惑につい引き寄せられてしまった。
ほんのちょっとした出来心で。
只、寂しくて虚しい感情を誰でもいいから埋めてほしくて。
「…?その男は誰なの?」
『…友達よ』
そう返せばふうんと返事が来てそれで終わり。
きっと無一郎は嫉妬という感謝がないんだと思う。
いつだってそう。
他の人と一緒に居たって、二人で出掛けたって
怒るわけでもなく、興味を持つわけでもなく…
そんな二人は付き合っていると言えるのか…。
添い遂げる人はこの人だけと
心の中では決めていたとしても、
そこまで完璧な人間ではなくて…。
少しでも穴があいてしまえば、
隠すように代理を見つけて
そして偽りの温もりに包まれて安心する。私はそんな汚い人間だ。
今日も誰もいない冷たい家で、
過ごす日々。
わかってる。
無一郎は鬼殺隊でその中でも一番強い柱だって。
毎日、平和の為に鬼を倒してるのは知っている。忙しいのも。
会えない夜でも、数時間後には朝がきて無一郎の無事な姿を見るだけで我慢できた。
なのに、いつからだろう?
心のすれ違いを感じてしまったのは。
それから重力に逆らうことなく、
亀裂は大きな穴となって私の心は冷たくなっていくのを感じた。