第1章 *伝えたかった想いと叶わぬ願い 時透無一郎
確かに昨日の鬼より俊敏な動きをする。
刀を振り下ろせば、斬ったのはそいつの残像だ。
「…時間の無駄だな」
撹乱するつもりでいるだろう鬼は余裕と感じたのかげひげひと気味の悪い笑い声をだす。
「…お前の動きは読めたから…もういいよ」
霞の呼吸弐ノ型 八重霞
降り注ぐは鬼から流れる大量の血。
派手にやってしまった…
血生臭い臭いが体を覆う。
に気付かれないように体を清めないと
周囲を見回り今度こそ鬼がいないと確かめた僕は
返り血を浴びた体で家に向かった。
その選択が間違いだと気づかずに。
気配を消して家の中にはいる。
まだ、夜明け前だ。
普段の彼女ならまだ眠ってる頃だろう。
日輪刀を隣に置き汚れた隊服を脱ぎ捨て、中に着てるシャツに手を掛けた瞬間、ガタッと物音がした。
『…ゆ、有一郎…何してるの…』
「……これは」
驚愕の顔を浮かべるは顔面蒼白で唇をわなわなと震わせていた。
『…血…血…嫌あぁぁぁぁ!!!』
突然発狂するを咄嗟に抱き締めた。
ガタガタ震え出すを落ち着かせるように抱き締めるも血だらけのこの体では無意味だ。
「…大丈夫だよ!!、落ち着いて!!」
『嫌っ…嫌っ…ゆ、有一郎…が…有一郎はもういない…』
瞳から溢れ出る涙は僕のシャツを濡らす。
真実を知ってしまった彼女。
脳が情報処理に追い付かず同じ言葉を何度も何度も繰り返した。
取り乱すに僕は抱き締めることしかできない。
「…つ…お願いだからっ…僕を見てっ」
『嫌っ…嫌っ有一郎っ』
喚くになにもしてやれない
非力な自分に腹が立ってくる
愛する人の幸せを隣で感じていたかっただけなのに…
兄さんのふりをした罰なのだろうか
『貴方は無一郎なのっ…』
「うん」
『有一郎はもういないのっ』
「うん」
子供に言い聞かせるように問われた質問を答える。
何度でも。本人が理解するまで。
そして、彼女はあまりにも受け入れがたい現実に
ぷつりとまるで糸が切れたように意識を失ってしまった。