第6章 恋の芽吹き 時透無一郎
部活が終わり、廊下を進むこと数分。また無一郎君とすれ違いざま今度はポーチを取り上げられる。
『またなのっ?!』
「…これ、貰っていい??」
『良いわけないでしょ!!返してよ!有一郎君に誉められたポーチなんだからっ!』
何を考えてるのか無一郎君は。
取り上げられたままのポーチを取り替えそうと手を伸ばすも、ヒョイヒョイと躱す。
『さっきから本当になんなの?!私をからかってるつもり?!』
頭にきた私は怒鳴るように声を張り上げた。
流石にビックリたのか放心した無一郎君からポーチをひったくる。
「そんな、つもりはないよ…ただ…」
『ただって何よ?!』
「ごめん、今言ったところできっと君を困らせるだけだから」
とても悲しそうな顔をする無一郎君に心がズキンと痛んだ。何故だろう…そんな、顔をしないでと心に浮かぶも発言することはなかった。
また新しい一日が始り、代わり映えのない学校生活。
今日は部活が休みのようで、でも、家に帰る気はなく気分転換に屋上へ。
一人涼しい風にあたってると、ガタンと音がして振り替えれば有一郎君が後ろに立っていた。
「じゃん、今日は部活ないけどどうしたんだ?」
『っ…有一郎君こそっ…帰ったんじゃなかったの??』
とことこと私の横に並んで立ち、長い髪が優しく揺れる。
綺麗だと思った。
夕日に照らされて、空を眺める君を。数分見とれていたらふいに有一郎君が口を開いた。
「無一郎のこと嫌いにならないでくれよな」
『嫌いじゃないけど…』
そう言えば、そうかと嬉しそうに笑う。
まただ、無一郎君と何かある度に有一郎君が現れる。
まるで、無一郎君が私のこと…
『…好きっ』
「…え?」
?!
思わず口についた言葉。
焦る私に有一郎君も言葉が聞こえたのか戸惑いの表情を見せた。
『私、有一郎君が好きっ…』
今なら誤魔化しがきくはずなのに
紡いだ言葉は本音。
想いを伝えるはずはなかったはずなのに。