第6章 恋の芽吹き 時透無一郎
階段を駆け下りる。
誰もいないどこか遠いところへ逃げ出したかった。
視界が歪んで涙が出る。
頬に伝うそれに構わず、一階まで下る。
答えはNOだ。
もちろんそんな気がしてはいた。
私の想いは玉砕に終わり、
これからはどんな顔をして彼に会えば良いのだろうか。
フラれるのをわかっていたはずなのに、こんな気持ちになるならやはり誤魔化せばよかったものを。
後少しで、玄関口というところで、誰かに抱き止められる。
「なんで、泣いてるの?」
『離してよ!!貴方には関係ないっ!!』
「関係なくはないよ…だって、僕は君のこと好きだから」
『好きって何よ!迷惑だからっ…同じ顔をしてそんなことっ…言わないでっ…』
最低だ。八つ当りも甚だしい。
心配する彼を責めるなんて人として最低すぎる。
『っ…ごめんなさいっ…』
「気にしないで、大方予想はついたから」
私の頭を優しく撫でるその手つきは酷く温もりを感じた。
涙で濡れた顔を隠すようにぎゅっと抱き締め、涙が止まるまでずっと側にいてくれた。
「…僕も同じ気持ち、が好きだから」
でもね、僕は諦めないよと笑う貴方に心がトクンと甘く揺れた気がした。