第6章 恋の芽吹き 時透無一郎
『?!っ…』
「ん、旨いっ…」
『え?え?え?』
呆然とする私をよそに、一口、更に一口と食べ進める無一郎君。
いや、あのね?
ふろふき大根好きなのは知ってるよ?だって、有名だもの。
でもさ?人に断りもなく勝手に食べるかな??しかも、君、ファンから食べきれないくらい貰ってるんじゃないの?
ごちそうさまという言葉で、現実逃避してた思考が一気に戻された。
無一郎君の手元には綺麗に食べ終わったタッパーとビニール袋のみで。
『…』
「はい、これ」
そして、私に渡してきたのは
今の私には不必要な物。
プツリと何かが切れる音がした。
『無一郎君っ!!これは流石に酷くないかな?!せっかく有一郎君と同じ空間で作ったふろふき大根を勝手に食べるなんてさっ!!』
「?…なんで怒ってるの?兄さんと一緒にいたんならそれでいいでしょ?僕はふろふき大根食べたかったわけだし」
話が噛み合わない。私が怒ってるのを無一郎君に伝わらなくて更に苛つかせる。
もういいと無一郎君を通りすぎて学校を背に帰路につく。
とても幸せな気分に浸っていたのに、先程のやり取りのせいで全て台無しだ。
次の日もつまらない授業を全て終え、終わりを告げるチャイムが鳴り響いた後、家庭科室へ。
一番早めに着いたみたいで、教室には誰もいなかった。
空いてる椅子に腰掛け、人が来るのを待つ。すると数分後にスライド式のドアが開き有一郎君が中に入ってきた。
「あ、今日は早いんだな」
『有一郎君っ!き、今日もいい天気だね』
何を言ってるのだ私は。
まともに会話すら出来ないのか。
そんな、私には珍しく笑いながらそうだなと返してくれて心が温まるようだった。