第6章 恋の芽吹き 時透無一郎
「へー…って、料理上手いんだな」
味付けをしてると突然後ろから有一郎君が話しかけてきた。
同じグループではないのだけれど、すぐ後ろで調理をしてたのか振り替えると目が合う。
誉めてくれてとても嬉しいけど、それより嬉しい事がもう一つ。名前を知っててくれてること。
話したことなんて一度もない。
いつも遠目から見ているのだから。
『う、うん…ふろふき大根は得意だよっ』
「そっか、なら無一郎が喜ぶな」
声が上擦るも、何とかアピールできた。いくら陰ながら応援するといっても年頃の女の子。やはり好きな人と小さな幸せを感じていたいものだ。
何故其処で無一郎君が喜ぶかは疑問だけれど、きっと深い意味はないだろうと聞き流した。
そう、皆さんもうお気付きかと思いますがあえて言わせて頂きます。
私は兄の有一郎君に絶賛トキメキしております。
ふろふき大根を作り終え、他の乙女は無一郎君を探しに家庭科室へ出たり、有一郎君に群がっていた。
私は渡すこともなく、家に帰ってから食べようとタッパーを貰い家庭科室を出る。
『あー…有一郎君と話せて幸せだったな』
思わずスキップしそうな程、ハイテンションな私を廊下ですれ違う人は訝しげに視線を向ける。
でも、気にしないっ!だって好きな人と話せたんだからっ!!
袋に入ったタッパーを片手に持ちながら、気がつけばスキップをしていて
すれ違う人に突然袋を取り上げられた。
『っ?!いきなり何をっ!』
「食べ物、振り回しちゃ駄目だよ?」
仰ることはごもっともです。
すみませんと顔をあげれば時透弟が目の前にいた。
『あ、あの…その食べ物返して「ヘー…ふろふき大根作ったんだね」…あ、はい…』
人様の袋を勝手に開け、中身を確認したあと、袋から取り出してあろうことか備え付けの箸を使ってパクリと一口頬張った。