第42章 *逃れることは出来ない 時透無一郎 ☆
無一郎さんが居なくなって、一時間半くらいだろうか?
辺りに立ち込む、嫌な気配が一層重苦しく、不穏な空気をさせていた。
<かわいい娘だねぇ…>
『…っ』
不気味な声が聞こえたと同時に鯉口を切る。
緊張が走る。冷や汗が頬を伝い
声のする方へ振り向いても姿は確認出来ない。
『隠れてないで、出てこい!!』
<怒った顔も可愛いのう…>
かさかさと茂みが揺れたのを視認すると、勢いよく刀を振り下ろした。
けれども、切れたのは雑草のみ。
鬼の声が木霊して、耳に響いて気持ち悪い。
<何故に男の格好をしているのか…>
『っ…お前には関係ないだろ!!』
<素直じゃないのかい…なら、儂が素直にしてあげるからのう>
姿は見えないのに、まるで近くにいるかのように声が耳元でハッキリと聞こえる。
気配を辿ろうとするけれど、木々の隙間をひょいひょいと逃げる鬼に苦戦をしていた。
<そんなに、怒りなさんなって…ほれ、飴玉じゃ…うまいぞお?>
『っ…いらない!俺が欲しいのはお前の首だ!!』
<遠慮ならんなって…ほれ食べてみな>
やっと姿を現したと思えば、
腰の曲がった白髪のお婆さんだった。
『!?…なんてことを…』
一瞬人間かと思ったけれど、それは間違いなく鬼だった。
お婆さんの皮を被った鬼。
胴体のみのお婆さんの体を頭に被せて、気持ち悪い目玉をいくつもつけた青色の物体。
両手で大切に持っている飴が入ってる瓶を開けて、1つの飴玉を取り出した。
一瞬の隙を突いて、首を切り落とそうとしたけれど、指で弾き飛ばした飴玉は私の口の中へと入っていき、喉に詰まることなく胃の中へと下っていた。
嚥下したのを吐き出そうと、したけれど、何も出てこない。
焦る感情。これでは鬼の思うつぼだ。