第38章 可愛いあの子 時透無一郎
の気の済むまで頭を撫でさせ、無一郎はどこか懐かしく思う。
「(昔、誰かに同じように頭を撫でてくれた人がいたような)」
ぼんやりと考えるがやはり誰かは分からない。霞のかかった記憶を探してみても思い当たる人物は誰一人として見つからなかった。
『むいちゃん!出掛けよう!』
「え?」
『むいちゃんって綺麗な髪してるのになんで装飾品つけてないの?!ほら、早く!!』
戸惑う無一郎を引きずるようにして、屋敷を出るのだった。
賑わう商店街。相変わらずここ周辺は繁盛していて、大勢の客人が色んな店に訪れていた。
人波に呑み込まれないように、手を繋いで歩くと無一郎。
ゆったりと歩く中、老舗の雑貨屋で足が止まる。
綺麗な髪飾りが店の前で展示されていたからだ。
多種多様なアクセサリー。
その中から一際目を引いたのは
エメラルドクリーンのような綺麗な簪だ。
『髪が綺麗だから、この色がよく似合う』
「さん…僕…」
『大丈夫、大丈夫!これはプレゼントだから遠慮しないで!』
無一郎の言葉を遮り、店主に支払った後無一郎の手をとって、店を出る。
『その後はどこに行こうか??どこか行きたいところある?』
「さん」
人が行き交う商店街は、気を張っていないとどこか流されてしまいそうで。
人の流れに飲み込まれないように、無一郎の手を掴んで前へと進むに無一郎は立ち止まる。
『どうしたの?』
「………××です」
『え、なに?ごめん、聞こえなかったら場所移そっか』
無一郎が何か言っていたが、人混みの雑音で大事な部分を聞き逃してしまう。
とりあえずと、落ち着いた場所に移動しようとが言えば
無一郎は握られた手を握り返し
甘味処へと足を運んだ。