第36章 願掛けて願いよ届け時透無一郎☆
歩きだした。
歩きだしたはずだ。
なのに、体がその場から動いていないのは、ものすごい力で私の肩を押さえつけているからで。
誰なのかなんて、振り向かなくてもわかる。
ぎぎぎっと油のきれた、機械みたいに後ろを振り向けば、そこにはとても笑顔な無一郎君と
それとは対称的なムッとした表情の御姉様方がそこにはいた。
「僕を置いて、どこにいくの?
彼氏である僕を置いて」
『…あ、あの…それは…これには深い訳が…』
「昨日、大胆に
゛君から口づけ”
してきたくせに…その威勢はどうしたの?」
ある部分を強調して言う彼。
彼氏と口づけという単語に反応して、御姉様からの視線が鋭利なものに変わっていった。
「ほら、行くよ」
『…うえっ…あ…ちょっと!』
無一郎君はそんな取巻きを気にするわけでもなく、私の腕を引っ張ってすたすたと前を歩き出す。
私はそのまま、流されるように無一郎君についていった。
__
「僕から逃げるなんて…いい度胸してるね」
『あ…それは…すみません』
行く宛もなく、ぶらぶら歩きながら話す彼は少し機嫌が悪そうだった。
色んな店が建ち並ぶこの場所で、無一郎君と喧嘩なんかしたくないな…。
そう思った私は、無一郎君の前に出て頭を下げた。