第35章 疑惑 時透○一郎
そんな日が淡々と続いたある日。
慣れ始めた日常に転機が訪れた。
いつものように、無一郎さんを見送った私は天気も良いことから洗濯物を外に干していた。
『これで最後…っと』
ハンカチを干し終わったタイミングで、1つのインターホンが鳴る。
急いで中に戻り、玄関へと向かう。
ドアを開ければ
中型の段ボールを持った爽やかなお兄さんが荷物を届けに来たと口を開く。
「ここにサインをお願いいたします!」
『あ…はい……?…』
「どうかしましたか?」
『あ、いえ………』
サインを書き、荷物を受けとると
宅配便のお兄さんはまたよろしくお願いします!と元気な声で戻っていった。
「相手の書き間違えかな…」
差し出人は有名な通販サイトだった。私のではなく、彼の荷物らしい。
ただ、違和感を感じたのは彼の名前。
『…有一郎…』
そこには時透有一郎と記載されてあった。
無と有…対となる字であるから、間違えたのかなと思う反面、どこか懐かしい響き。
口に馴染むような、そんな名前に
何度も言葉に出してみる。
『有一郎…有一郎…有一郎…』
もやがかかって、わからないその先にあるもの。
懐かしい、知ってるようなそんな気がするのに…
『…きっと、気のせい…だよね』
荷物は彼の部屋の前に置こうと、
持ち上げて、玄関から離れた。