第35章 疑惑 時透○一郎
「『いただきまーす』」
二人で作った夕御飯を、テーブルに向かい合わせて食べる。
とても美味しくできたので、無一郎さんも美味しそうに箸を進めて食べてくれた。
『無一郎さん、記憶を失くす前の私と今の私はやはり違いますか…?』
「…?どうしてそんなことを聞くの?」
『…特に深い意味はないのですが…少しでも多く記憶を取り戻す鍵になればなと…』
「…別に焦らなくてもいいんじゃない?…まぁ、確かに少し大人しいかな?昔は敬語で話してなかったし、馬鹿みたいに明るかったから」
ごちそうさまと食器を片付ける無一郎さんに言われて、今の私と正反対なのかと落ち込む。
無一郎さんは焦らなくていいと言うけれど、やはり過去の自分を知らないと心もとなくて…とても不安だ。
それからも、昔の事を聞いてもなにかと誤魔化して、はぐらかしては
自分を知ることは出来なかった。
……もちろん、無一郎さんの事も。