第35章 疑惑 時透○一郎
『大根と…』
今日の献立はメインはふろふき大根にしようと、かごに大根をいれて、他にも使える野菜をいくつかかごに入れる。
「今日はふろふき大根?」
『…え?』
精肉コーナーへと足を運んで、ひき肉を見てる私に馴染みのある声が聞こえた。
振り向くと、無一郎さんはそこにいてびっくりして固まる私をよそにふふふと綺麗に笑う。
『…どうしてここがわかったんですか?』
「驚いたでしょ?はよくここで買い物してたから…今朝冷蔵庫の中は空だったし…もしかしてと思って」
『凄い…お見事ですっ!…あ、ごめんなさい…夕御飯間に合わなくて…』
無一郎さんはまだお腹すいてないから、一緒に作ろうとさりげなくかごを持ってくれた。
こんなに優しい人が私の隣にいてくれるなんて、幸せ者なんだなと
胸の内がじんわりと温かくなる。
その後も二人仲良く話して、肩を並べて家までの道を歩いていった。
___
「ただいま」
『ただいま…おかえりなさい』
私の返事に無一郎さんは嬉しそうに笑う。
買い物袋をそのまま両手に持った無一郎さんはすたすたと台所まで向かって、荷物をテーブルに置いた。
「あれ?掃除した?」
『あ…はいっ!』
「大変だったでしょ?…ありがとうね……もしかして、僕の部屋も掃除した?」
『ありがとうございます!…いえ、無一郎さんの部屋は手をつけてないです』
「そう…それなら、良かった恥ずかしいから俺の部屋には入らないで…ね?」
無一郎さんは念を押すように私に告げると、買い物袋を持って食材を冷蔵庫にいれた。
無一郎さんの部屋を残しておいて良かったとホッと息をつく。
誰だって、部屋の中を勝手に掃除されたくないものだ。
けれども、駄目だと言う無一郎さんの表情は普段からは想像つかないような冷めた眼差しをしていて
いつもと違うようでなんだか怖く感じた。