第35章 疑惑 時透○一郎
「無理に思い出さなくていいよ…ゆっくりのペースで思い出していこう?」
『すみません…』
「謝らないで?僕はが生きててくれて嬉しい」
そっと抱き締めてくる彼の背中は震えていた。
でも今の私にとっては、どうすることも出来なくて。
ただ、彼の気の済むまで立ち尽くしていた。
『えっと…』
「僕は無一郎だよ」
『無一郎…さん』
そう言えばさんはいらないんだけどなと、困ったように笑いながら私の頭を撫でる。
暫くは、無一郎さんもここに住んで私の世話をしてくれるらしい。
流石にそれは悪いからと、何度か断ってもそれだけは譲れないと、彼も折れてはくれなかった。
「僕はと居たい…もうあんな思いはしたくない…本当に怖かったんだ」
『ごめんなさい…』
壊れ物を扱うように優しく抱き締めてくれる無一郎さん。
恥ずかしくてそわそわしてしまうけど、嫌じゃなかった。