第34章 *スカビオサの花言葉時透無一郎
『本当ですか…足の腱…蟲柱様に見せたときはなかったって…』
「……」
『この傷は、いつ出来たものですか…』
見上げると霞柱様は、無表情でこちらを見下ろしていた。
人形のように、血の気の通らない表情で恐怖心が支配する。
それでも、今まで優しかった霞柱様がこんなことするはずがないと、一縷の望みにかけその言葉を待った。
非情にも、縋った望みは儚く消えていってしまった。
それは、霞柱様が立ちあがり
ふふふと嬉しそうに笑った事から崩れ落ちていった。
「ふふふ…なーんだ、もうばれちゃったの?
そうか…
胡蝶さん来てたのかー
今日は来ないと思ってたのに…
」
『……か、霞柱…様』
「そうだよ、全ての考えてる通り
足の腱を切ったのは僕、気づかなかったでしょ?一太刀で終わらせたからね」
『…そ、そんな…ど、どうして…』
私にはわからなかった。
怪我をしてる自分にあんなに良くしてくれたのに、わざわざ足の腱を切るだなんて…。
恨まれているなら、面倒を見ないと思うし、なんなら助ける事なんてしなかったはずだ。
「とってもいい表情をしている…さぁ、早く家に帰ろう?こんな体じゃ、風邪をひいてしまう」
軽々しく私を持ち上げる霞柱様は
とても早く地を蹴り、元来た道を戻るように足を進めた。嫌がり暴れる私を気にすることなく、力で押さえつけ
いつの間に家についたのだろうか…
気がつけば縁側へと放り投げられた。
『っ…』
「もう少し良い人でいようと思ったのにな…でもうまくいってくれたかな?君はもう鬼殺隊を続けることはないし、僕から離れることもない…足が動かないのに逃げようとするなら、今度は腕も切りはなして這いずることが出来ないようにすればいい」
『っ…ひぃっ!』
上体を起こし、後ずさる私に霞柱様もゆっくりと近づく。
汚れた足や手、衣類が畳を汚すけれども今はそんなことを気にかける余裕はないに等しい。
「逃げないで?…それとも、腕もういらない?」
『…っ…』
脅しじゃないとひしひしと肌に伝わる威圧。丁度後ろには先程まで自身が寝ていた敷きっぱなしの布団で、冷や汗がたらりと頬を伝った
『…か、霞柱様…そういえばお手伝いさんは今どちらに…』
なんとか今の状況を変えたくて、話題から変えようと、最近見ないお手伝いさんの話をした。