第1章 *伝えたかった想いと叶わぬ願い 時透無一郎
「僕は無一郎なのに…ね」
湯浴みを終え、軽くバスタオルで濡れた体を拭く。
髪を乱雑にタオルで乾かしながら冷たい廊下を素足で歩いた。
ペタリペタリと物音をたてながら食事をとるべくがいるであろう台所へ。
近づけば近づく程美味しそうな香りが鼻腔を擽る。
『あ、有一郎…もう上がったんだね』
僕の気配に気づいたは、優しい笑みを向ける。
両手には綺麗に盛り付けられた僕の大好物が。
『ふろふき大根…無一郎が好きだったよね…
久しぶりに作ってみたの…』
儚げに笑うに僕はどんな表情をすればいいのかわからない。
僕が無一郎で、死んだのは兄さんだなんて事実を告げればこの関係は終わるのだろうか。
今君の瞳に映ってるのは誰?
僕のようで僕じゃない。
その日の食卓はいつもと違って味気なかった。