第31章 *雁字搦めの蜘蛛の糸(時透無一郎)
校門をくぐり下駄箱へと進む。
既に他の生徒がそれぞれの教室に向かう中、一際目立つのは長い髪をゆらゆらと揺らし、階段を上ろうとする二人。時透兄弟だ。
二人はまだこちらに気づいていない。有一郎君だけなら頑張って声をかけたかもしれないけど…。
弟の方が苦手な私は少し遠回りして教室に向かうおうと決めそのまま階段を素通りしようとした。
「あ、」
「ん?あぁ、おはよう、」
「あれ?…兄さんのこと知ってるんだ?」
時透君の声に私に気づいた有一郎君も足を止めた。
『…お、おはよう…有一郎君…時透君』
無視するわけにもいかないと、なんとか震える声を絞って声を出すけれど、手の平を汗でじっとりと濡らした。
「…ふーん…ね、僕も下の名前で呼んでよ」
『…え?』
「兄さんばかりずるいじゃない…良いでしょ?…」
なんだろう…ただ、時透君は笑っているだけなのに変な威圧感を感じる。
逆らってはいけないような…
何かをされたわけではなく、ただ薄ら笑みを向ける時透君に恐怖で無意識に首を縦に頷いてしまった。
「…ほら、も無一郎も早く教室に向かうぞ」
『あっ…うん』
有一郎君の後を追うように階段を上る私。その後ろに時…無一郎君がいて挟まれるように教室へと向かう。その間、やたらと背後に突き刺さるように注がれた視線に私は気づかないふりをした。