第31章 *雁字搦めの蜘蛛の糸(時透無一郎)
翌朝、いつもより早く起床して
朝の準備をする。
鏡台の前に座り、慣れない手つきで髪を解かし姉の髪飾りを横に着ける。
そして、昨日買ったリップを口に滑らせ2、3回唇に馴染ませるため開閉を繰り返す。
これが限度。お洒落がわからない私には。
「…早いじゃん…どうしたの?こんな早く…ええ?がお洒落に目覚めたの?!」
『あ、おはよー…ごめん髪飾り借りてる』
そんなこと別にいいよ!それより、顔かしなとどこかヤンキーの口振りで顔を掴まれ
あれやこれやと化粧品が私の顔を彩る。
数分後には、鏡に映る自身の顔が全く別の人物を映しているようだった。
『凄い…』
「私の腕にかかれば、こんなもんよ…アンタの顔はそんなに悪い訳じゃないし、それより恋したんでしょ?誰相手は??言ってみ?」
最後に髪飾りをつけ直してくれて、姉はとても満足そうに腰に手をあて鼻息荒くする。
「…有一郎…?……時透?!」
『う、うん』
「これまたハードな…恋諦めたもん勝ちじゃん?」
高等部でも有名なのか…時透の名は。
同情の眼差しを向ける姉に、最大なため息が溢れてしまう。
それでも、初めて知ったこの感情にはい、そうですかと簡単に諦められるほど聞き分けのいい女ではない。
「ま、いいんじゃない?そもそも人に興味がなくお洒落れに疎かったアンタが前進しようとしてるんだから」
『…姉さん』
「応援してるよ、まずは化粧の仕方を覚えて…眼鏡をやめてコンタクトにすれば?」
『それは嫌…だって、恥ずかしいし…』
嫌がる素振りを見せた私に、姉はそう?と残念そうな顔をして眉根を下げた。
少し変わった自分がそこにはいて。彼に変わったのを気づいてほしい淡い恋心を胸に秘め、一風変わったように見える、通学路を歩いていく。
心がうきうきとした気持ちだからだろう。いつも通る道なのに、目に入る全てがどれも新鮮に感じる。