第31章 *雁字搦めの蜘蛛の糸(時透無一郎)
『…ヒィっ』
「…あ、悪い…でもそんな悲鳴のような声出さなくても…」
『あ、ごめんなさいっ』
全身戦き小さく悲鳴をあげる私に困ったように頬を掻きながら苦笑いするのは時透のお兄さんの方で。
人違いだと知った私は何度も頭を下げ謝ると、気にしてないと頭を優しく撫でる。
『…え?』
「あ、悪い…無一郎の頭をよく撫でてたから癖でつい」
時透君は私を弟重ね頭を撫でたと言った。
身内以外に頭を撫でられるのはどこか新鮮で、なんか気恥ずかしくて。
その後も話は意外と盛り上がって、好きな物や共通点が多くとても楽しかった。初めて交換したメアド。久しぶりに本以外での有意義な時間を過ごせたと思う。
『…またね、時透君。今日は楽しかったよ』
「…時透は二人いるだろ?俺の事……その…名前で呼べば?」
今日も同じ学校生活だったはずなのに1つ確かに変わったこと。
人に興味がなかった私に温かい胸の高鳴りが芽生えたこと。
『有一郎君…か』
家に帰宅し晩ご飯、御風呂を済ませた私は自室でポツリと名前を呟いた。
名前を口にするだけで胸がドキドキする。
この感情は何かを私は知っている。
本で学んだ恋するという気持ちだということ。
リンリンとスマホの通知音が鳴る。
携帯を開けば、帰宅してからずっと考えてた有一郎君から。
メッセージを開けば、明日の昼一緒に食べないかという簡素な内容だった。
まさか、こんなすぐに昼のお誘いがあるなんて。
とても嬉しくて、すぐにOKの返事をする。
ドキドキやワクワクする胸の高鳴りをなんとか落ち着かせて就寝する。明日はきっと良いことがあると思い浮かべながら。