第31章 *雁字搦めの蜘蛛の糸(時透無一郎)
『な、なにか…?』
「ん?いや、別に」
『あの、撫子さんが時透君とお話したいみたいなのでどこかへ行かれては?』
こちらを見る撫子さんの顔がそれはそれは般若のよう。
時透君のサイズのあわない学ランを軽く引っ張り、別の場所に移動しようとする彼女に時透君は何の反応も見せないでいた。
「…ん?あぁ…君いたの?ごめん、気づかなかった」
「無一郎君、ひっどーいほら、早く行こ?」
私が撫子さんの存在を教えると、今気づいたと反応を見せる彼。
彼は独特な雰囲気を出してる。
あまり人に興味がない彼は特定の人とでしか彼は笑顔を向けることはあまりない。
けれども眉目秀麗の彼はその容姿だけで女子から人気が高かった。
そして、その姿はこの学校ではもう一人いて。
その彼のお兄さん。銀杏組の時透有一郎だ。
彼もまた一卵性双生児なので姿形は瓜二つ。
ただ、性格は違うらしいけど…。
お兄さんの方とはクラスが違うこともあるし、そもそも人に興味がない私は話したことはないのだけれど。
それは今目の前にいる彼にも同じことで。
クラスメイトってだけで特別接点があるわけじゃない。
席は離れてる。部活も違う。
家が近所ということも多分違う。
ならば先ほどの考えに出てきた気まぐれ。
『…私、この本返さないといけないから』
逃げるように教室を出る。
注目されるのが嫌いだ。
人と話すのが苦手だ。
時透無一郎が駄目なんだ。