第30章 奇跡と恋と最期の願い時透有一郎
彼と帰る道はいつもの道なはずなのに、どこか変わったように見えた。
そして、それ以上にとても彼女が羨ましくも思えて自分がとても惨めだと思い知る。
<時透君、ありがとう…私の我が儘に付き合ってくれて…私、やっぱり時透君が大好きだよ…これからも>
そう言う私に彼は困ったような表情を見せる。
けれど、その反応は予想していたから彼を困らせることになるけれど伝えられて良かったと未練は断ち切れた。
そして彼にどうしてもと頼んで一緒に下校したその日の夜に私は
近くにある神社の奥にある湖に身を投げてこの世を去ったのだ。
『っ…』
目を開ければ真っ白な天井が視界に入り、アルコールのような薬品の独特な香りが鼻腔を刺激する。
すぐに病室だと気がついた。
「…!!大丈夫か?!気がついた?!」
何で彼がここにいるんだろう。
私は助かったの…?
とても心配そうに見つめる彼に不謹慎だと思ってもそれ以上にとても嬉しかった。けれどもそれと同時に感じる違和感。
感じた違和感の正体はすぐにわかった。
彼が普段は私に向けることがない私をみる優しい眼差しと
゛かれん゛と唇が動いたから。
『っえ…』
驚く私に彼は更に眉根を下げ心配する。
『あ…えっと…お手洗いに行きたい…』
急いで病室を飛び出すも、体が思うように動かせない。飛び降りたせい?でも飛び降りたのはこの人の体ではなく私の体だ。
そして、ほんの数メートル離れてるだけなのに既に息は上がっていた。
覚束無い足を何とか奮い立たせ、化粧室へと向かう。
息を整えそこに設立された化粧台をみれば、そこにたってるのは゛私”ではなく゛かれんさん”だった。
傷なんて1つもない真っ白い肌、
お人形のようなきめ細かい端正な顔立ち、そして吸い込まれそうな程優しい青い瞳。
どこか西洋のお人形を思い浮かべるような綺麗な人が鏡に映っていた。
『嘘…っ…なんで…』
震えがとまらない。
私は死んだはずなのに。
この世にいないはず。
それなのに、何故私はかれんさんの姿でいるの?
確かに何度も願った。
彼女のようになりたかったと。
彼の傍に居たかったと。
けれどもそれは叶わぬ夢で、
現実にすることなど出来やしないのに。