第30章 奇跡と恋と最期の願い時透有一郎
あの人の為におしゃれを覚えた。
あの人に振り向いて貰いたくて化粧を覚えた。
あの人のとなりに居たくて女の子らしさを覚えた。
なのに、私には後何が足りないの?
どうしたら…振り向いてくれるの。
彼の名前は時透有一郎。
彼との出会いはごく普通のクラス替え。教室に入って目にした瞬間。
一目惚れだった。心臓を鷲づかみされたような感覚。
けれど彼には素敵な彼女がいた。
名前のようにとても可憐で華奢で守ってあげたくなるようなそんな人。名無野かれんさんという。
それでもと何とか彼に振り向いて貰いたくて、自分を磨いて告白して見事玉砕。
<かれんがいるし、今忙しいから>
その言葉が今も胸に突き刺さっている。
それでも諦めることが出来なくて
一瞬でもいいから彼の目に自分を映してほしくて。
だけど、彼の目に心にいるのは彼女だと毎日思い知らされる。
今日は彼が部活で彼女と一緒に帰れない日だ。狡くて汚い私は下駄箱の裏で待ち伏せをする。
一人ゆっくりとした足取りで下駄箱に向かう彼に、下駄箱の影から飛び出すように出ると、いつもポーカーフェイスな彼が驚いた表情を見せた。
何度も頼みこんでやっと初めて下校を共にする。
彼女には申し訳ないという気持ちはあるけれど、これが最初で最期だから。せめて、今だけは彼を独り占めさせてほしくて。