第23章 闇夜に浮かぶは真っ赤な花 時透無一郎
「…どうして、まだ忘れられずにいるんだろう…」
どんより曇った空を、見上げポツリと呟いた。
あれから無我夢中で捜した。
初めて会った場所。
彼女が居そうな暗い森。
人混みの中も進んで歩いたけれどやはりは見つからなかった。
「……」
なんで、こうも執着してるのか。自分でもわからなかった。
よく理解もせず、それでも本能に似た何かに僕は諦めきれずに捜している。
「……」
夜風が探し回って火照った頬を冷やす。
心地よい冷たい風が長い髪をゆらゆらと揺らした。
路地裏を歩けば誰かのくぐもった声。
その聞こえる声に駆け足で向かう。突き当たりを右に曲がれば、気持ち良さそうに吐息を洩らす男と。ずっと探してた彼女だった。
汚い手で彼女に縋って、汚い声を発する男に気がつけば男を殴っていた。
『?!…む、無一郎君…』
「…なんで?…急に僕の前から姿を消したの?」
『…ご、ごめんね…でも』
彼女は続けて何か言うつもりなのだろう。けれども、その続きを聞きたくなくて無理矢理口吸いをした。
『っ…ふっ…まっ…て』
抵抗を示す彼女の顎を固定して
僅かに開いた唇に間髪入れずに舌を差し込んで、貪るようにの舌を吸い、絡め、甘噛みし気のすむまで蹂躙する。
唇を離せば、飲み込みきれなかった唾液が厭らしくお互いの顎を伝う。
「…酷いよ…僕に何も言わずいなくなるなんて…僕はもう貴女が…『無一郎君…それ以上は言わないで…貴方はきっと、勘違いしてる…快感と愛は別物よ』
なんで、そんなことを言うの…。
咎めるように遮った言葉は酷く、僕の心を突き刺した。
「そんなこと言わないでよ…この気持ちは初めてなんだ…だけど、これが好きと言う感情だと僕は思う」
初めて人を好きだと思った。
初めて今ここに倒れて気絶してる男が憎いと感じた。
初めて欲しいと欲を知った。
それでも貴女はこの感情が違うと否定するの?
そんなことさせないと、彼女を抱き寄せた。