第22章 思えば思わるる 時透無一郎
『お慕いしておりましたっ…ずっと前から…貴方様っ…っ…無一郎が幼い時からずっとずっと…ですが、無一郎は会うたびに私を忘れて、覚えるほどでもないどうでもいい存在…正直疲れました…自分の体は自分自身が知っております。私はそう長くはないでしょう…ですのでっ、平隊士の私等、構うことはせず、早くっ?!』
「喋る余裕があるなら、ちゃんと呼吸しなよ…舌噛むよ」
無一郎は私を軽々と横抱きにすると、足早に山を下っていく。
無一郎の顔を見上げれば、いつもと変わらず無表情なのに
私には焦っているかのように見えた。
『(最期に願いが叶ったのかな)』
「正直、僕は君の事覚えてないし、どうでもいいと思っている…だけど何でかな?このまま野放しにしてはいけない気がするんだ」
『…無一郎…』
「君が助かるかどうかわからないし、君が助かっても僕はなんとも思わないだろうけど…それでも…理由はわからないけど後悔すると思うから…藤の家には連れていく」
任務へと向かった山から蝶屋敷まではかなり遠く離れていた。
近場の藤の家を訪ね、すぐに医者を呼んで治療を受ける。
麻酔が効いて、重くなる目蓋に
視野が狭窄する。
最後に見たのは無一郎のあの頃から変わらない浅葱色の綺麗な瞳。
そこで私の意識はそこでプツリと途切れた。