第3章 *鬼になった女の末路 竈門炭治郎
…距離が近づく度に、嫌な感情が心を埋める。
血の臭いに紛れ微かだが、嗅いだことのある匂いがする。とても懐かしい…。
「まさか…そんなはずはっ…」
急ぐ気持ちに体がついていかない。
痛みを我慢しながら、足早に鬼のいる方へ…
『あはっ…懐かしい気配がすると思ったら…炭治郎じゃん!久しぶりだね~』
目の前の光景を信じたくなかった…。信じられなかった。
幼い頃、よく遊んだ少女が目の前にいる。
血がベッタリとついた口もとを舌で舐めとり、
人の片腕を手に持った…
俺の初恋の人が。
鬼になっていた。
「…っっ…お前なのかっ…」
『やだ?忘れちゃったの?…ま、随分会わない内に姿変わっちゃったしね~』
とても嬉しそうな顔をして、人間の腕を草木へと無造作に投げ捨てる。
鬼になって姿形は最後に会ったときと変わらないまま
。大好きだった笑顔も変わらないまま。
なのに、今のは人間を食べる鬼だ。
『どうしたの?…そんなに震えて…怖い?私が?』
わざとらしく聞く彼女に俺は言い返す事が出来なかった。思考が追い付けない。
鬼ということは、切らなきゃ…頸を。他に犠牲が増える前に。
俺が?彼女の頸を??
葛藤する俺をよそに彼女は木箱に視線を向けた。
『禰豆子ちゃんも鬼になったんだね』
「っ?!ね、禰豆子はと違って人間を食べてないっ!!」
『人間を食べれば強くなれるのに…我慢するなんて勿体無いな~』
ニコニコ笑う彼女に俺は何もできずにいた。
鬼殺隊の身でありながら
判断ができない。彼女を切らなければいけないのに。
『…ね、炭治郎も鬼になりなよ楽しいよ?長生きできるし、老いることはない』
「俺は鬼になる気は毛頭ない!!!」
『そう…残念だ…わっ!!』
は自分の手を強く握ると血を流しその流れ出た血を俺に放った。
血は鋭い刃へと形を変え、無数の数が容赦なく俺に向かう。
辛うじて避けるも、先程の傷がうづき、全てを避けられない。
『ね、炭治郎…お願いよっ…苦しませたくないのっ』
「…っ…」
次々と攻撃を放つ。
瞳に涙を溜め、今にも泣きだしそうな顔を俺に向ける。
やめてくれ…を殺すという判断が鈍る…