第20章 *パンドラの箱に残された物 時透無一郎
『っ…んぅ…んぅ』
息が限界を迎える。
無一郎君の胸をとんとんと軽く叩いて限界を知らせると、最後に上唇を唇で食み離される。
銀色の糸が二人を繋ぎ、それがとても卑猥に見えた。
『はあっはあっはあっ…』
「残念、もう少し楽しみたかったのに」
予鈴が鳴り昼休みが終わりを告げる。
急いで教室に戻る私達をクラスメイトの視線が一気に向けられる。
ひそひそと女子の会話が聞こえたのは私に対する妬み。
代われるものなら代わってやりたい。
私は別に好きで無一郎君と一緒にいるわけではないのだから。
聞こえないふりで自分の席に戻ると、前の席の人はにやにやとした笑みを浮かべながらこちらを見る。
『…何?』
「いや?お前ら仲良いなぁと思って」
ヒューヒューお二人さんお熱いねと野次をとばす前の席の人を睨み付けて5限目に使う教科書を机の上に広げる。
「…教科書見せて」
無一郎君はそんな彼らに気にする素振りも見せず、教科書忘れたと私の教科書を机の真ん中まで引き寄せた。
本鈴が鳴ると同時に先生が教室に入り、授業が始まる。
無一郎君と1つの教科書を使ってる為、嫌でも肩は密着する。
黒板に書かれた文字をノートへと書き写し坂田先生を目で追う。
先生も気づいてくれて、 皆の目を盗んでは私に向けにこりと微笑んだ。
「………」
『っ…』
私と先生とのやり取りに気づいた無一郎君が机の下から携帯をちらつかせる。
いつでもばらす事ができるからなと
無言の圧力をかける無一郎君に
せっかくの先生の授業はノートと教科書に視線を行き来させるだけだった。