第19章 *寵愛 時透無一郎☆
稽古が終わる頃には、全員分のお善が綺麗に並んでいた。
無一郎や他の門下生が食事してる中、は休むことなく、風呂窯の準備をしていた。
『…ふー…湯加減はこれでいいかしら』
額に浮かぶ汗を拭い、無一郎を呼ぶとやっとここで一時の休息に入ることができる。
夕餉を手早く済ませ、片付けに入る。
たくさんの汚れた器を洗い終えれば、は寝室に向い布団を一組用意する。
これでやっと休めることが出来るのだ。
無一郎が湯浴みを終えれば代わるようにもそそくさと体を綺麗にする。
汗で汚れた体を洗い流し、風呂窯へ体を浸ければじんわりとした温かさがを包み幸福感が疲れた心を癒した。
身を綺麗にした後、無一郎に挨拶をしてから自室へと向かった。
自分の布団を用意した後寝床につくと数分も経たずに意識は途切れ深い夢の世界へ落ちていった。
すーすーと規則正しい寝息がする中、突然カタリと襖が空く音がした。
けれども疲れきったはその音に気づかないまま、まだ夢の中だった。
その影はに近づいて、側に寄ると暫くの間を見下ろしていた。
体勢を低くしに覆い被さるところでやっとは気配に気づく。
体勢を構えようと体に力を入れるが、相手の力が強すぎて指一本動かす事がやっとだった。
暗がりで正体は見えないが
気配で誰だかは確信めいたものを感じていた。