第16章 柱と隠の恋愛事情 1時透無一郎
「……馬鹿だね、だから少し遅れたんだね」
『っ?!……すみません』
時透様の言葉に内心キレてはいるが、もうしばらくは関わる事はないと己に言い聞かせ耐えてみせる。
ため息をついた時透は私に近づくと何を思ったのか突然私を横抱きにし狭い小道へと歩みを進める。
『と、時透様っ?!何故私を横抱きにしてるのですか?!』
「うるさい、黙って」
そう言われれば、口を噤むしかない。
聞きたいことはあるのだが、黙るしかなかった私は時透様を見上げる。
霞のかかった瞳は前を向いてて、
無表情なのはいつもと変わらない。
私より小さい体なのに、まるで軽いものでも運んでるかのように抱き上げる腕はとても逞しく
曲がりくねった坂道を歩いてでも抱き心地が安定してる様は無理してるわけでもなかった。
しばらく大人しくしていると、硫黄の香りが何処からともなく漂ってきた。
時透様から前方へと視線をずらせば湯下が木々の隙間から垣間見える。
そのまま前に進み視界に平がるのは天然の温泉だ。