第15章 夢見心地のお姫様 時透無一郎
授業が終わり、時透君は一人教室を出た。
その後を追い勝手に隣に並んであるく。
すれ違う女の子が思わず振り返ってしまうほどかっこいいのだ時透君は。おっとりしてるけれどどこかミステリアスで…そんな時透君に私は釘つけなわけで。
彼女がいるのに未練たらしく追い求めずに恋い焦がれるこの気持ちに蓋をしてひっそりと陰ながら見つめていればもう少し可愛い女のコでいたのかななんて思ったり。
無い物ねだりだなぁ。
そんな泥棒猫な私がどうして時透君のことを好きになったかと言うと、いつだったか廊下を這う老人に襲われそうになったときに時透君がそいつの頭にかかとおとしを喰らわしたのがきっかけで。
『ぎゃ?!な、なにこれきも!気持ち悪!!』
「恨めしい…恨めしい」
「邪魔、そこどいて」
次は移動教室ということで、教室を出て早めに到着しようと廊下を歩けば這いずる老人が私に迫ってきて。それを、後ろを歩いていた時透君は前に出て老人の頭に見事なかかとおとしを一蹴。
綺麗な長い髪が揺らいだかと思えば、老人に鋭い一撃。うん、二回言った。だって、衝撃的だったもの、それまでの時透君はおっとりしてるというか、ボーッとしててたまに竈門君と笑いあってるのは可愛いなぁとか思うだけのただのクラスメイトだったのに。
目を奪われてしまった。
変人に臆することなく、騒ぎ立てることもなく冷静沈着な時透君に。
思考がついていけず呆然と見る私に時透君は振り返ってにこりと笑ったのだ。
『あれからの私は好きだと言うことに気づいてしまって…なのにだ、ちんたらしてるからこんなことに!!』
「誰と話してるの?」
『だから、時透君の事!!』
誰かの声で思考は現実に戻る。誰かの声なんて決まってる。時透君だ。並んで一緒に歩いてるわけなのだから。
そして、すぐにまた思考は現実逃避しようと目論んだ。
カミングアウトしてしまった。バカだろ、自分。知っていたけど。
しかも、相手彼女持ち。
自爆したわ。
頭が真っ白になる。
大きな綺麗な浅葱色の瞳をこれでもかと言うほど見開いて私を凝視する時透君。そうだよね!君、彼女いるもんね!!
『っ!!アディオス!!』
もっとましな捨て台詞はないのかと自分がとても惨めで悲しくなってきた。
そもそも、私がやってることは
許されない。二人の邪魔をしているわけなのだから。