第15章 夢見心地のお姫様 時透無一郎
『と、時透君おはよ!』
「おはよう」
まずは笑顔と挨拶するも軽くスルーされる。
めげずに諦めるなと時透君の後を追い、話題を探す。
『きょ、今日はいい天気だね!』
「そうだね」
素っ気なく返される返事に挫けそうになる。
けれど、笑顔は絶やさず思い付く事を全て話題に変え同じ教室に向かう。
幸い彼女はいなかった。
『時透君!!これから移動教室だけど一緒に行ってもいいかな?』
「勝手にすれば」
おお、彼女がいても他の女にも優しく出来るのね…
彼女のだったらと考えると辛いことだけど、略奪を考えてる醜い私は喜びで舞い上がりそうだった。
そして、次の作戦はどじっ子を演じてアタックするとのこと。
正直、私の性格とは真逆だ。
時透君と並びながら歩いて、わざとつまづいて盛大にこけて見せる。
『フォブラッ!!』
手に持っている教科書を手放し可愛くいたーいなんて言えたら好評価だろう。なのにだ。なんだ、今のは。可愛さとはかけ離れてるではないか。
顔面を床へと強打させた私は立派な笑い者だろう。けれどこれ幸いとこの廊下を歩いてたのは私と時透君だけ。痛みと羞恥で顔を上げられない。
絶対ヘンナヤツだと思われた。
「…いつまでそうしてるつもり?」
『すんません』
情けない。
これじゃ、振り向いてもらえることなんて絶対ない。
きっと、時透君の彼女なら可愛く泣いて時透君に馬鹿だなぁと優しく笑いながら手を差し伸べてくれるんだろうな。
惨めな気持ちになりながら顔を上げれば、見たことない時透君のふわりとした優しい笑み。
思ったより距離が近くて、魅入っていると早くしてと手が差しのべられた。
とくんとくんと胸が甘く疼く。
知らない時透君の表情を新たに知りそして脳裏に焼き付けた。
移動教室までの間その事で頭がいっぱいだった私は当然ながら授業に身が入らず何度も冨岡先生に名指しされ注目の的となった。