第15章 夢見心地のお姫様 時透無一郎
「あんたもばかだね…」
『っ?!なにがよ!!』
鼻水と涙が机の上を濡らした。
昨日の事が頭を占めて私の心はどんより曇り空だ。
そりゃーそうだよな、あんなに可愛い女の子に告白されたらオケー以外の返事なんてないっしょ。
先程声を発したのは親友の千秋だ。
小中と学校が一緒で、私が時透君のこと好きだと言うことを唯一知ってる。悪友でもある。
「当たって砕けろって言ったじゃん」
『もう、心は砕け散ったわ』
千秋から渡されたはんかちを、鼻水つきで返せば笑顔で頭を叩かれる。かなり痛い。
教室の窓際から身を乗り出せば、校庭の隅っこで例の二人が楽しそうに談笑していた。
もちろん、声は聞こえないが
あの時透君が笑っている。
「…よくそんな遠目からわかるね」
『時透君の事なら、例え世界のどこにていても見つけられるからこれくらいどうってことないよ!』
「あんたの執着心は感服もんだわ」
呆れた眼差しを向けられるもそんな小さな視線には気にせず、
私は二人を見続けた。
そんな私に千秋は溜め息をついて
奪えば?と一言呟いた。
『え?!う、奪う?』
「略奪すれば?今どき珍しくないっしょ」
コーヒーの入った紙パックにストローをさし込みごくごくと喉を揺らすと、千秋は悪戯な笑みをこちらに向けた。
「あの子は確かに男子から人気だけど、時透君だって思春期の男の子、あの子より可愛さをアピールして奪い取るのよ!!」
千秋曰く思春期の男の子だから目が移ろいやすいとのこと。
男の子なんて目の前で弱々しくやればイチコロよ。あんただって顔だけならそこらの女よりいいと若干貶しながら笑う千秋は流石恋愛経験を積んだ大先輩なだけあるなと思う。
そして、その日は恋愛のエキスパートに女の武器を教えてもらった。