第13章 霞柱様の継子は私だっ!1 時透無一郎
明日でいよいよ無一郎様が刀鍛冶に向かわれる日。
この屋敷で一人になると思うと何故だか心の臓がチクリと痛む。
ここ数日、頭の中は修行はもちろんのこと、その半分が無一郎様で占めている。
好きな食べ物はふろふき大根だとか
よく紙切りや折り紙で遊んでるだとか…
少しずつ知っていく無一郎様を。
その度に心が甘く疼くのはどうしてなのだろうか。
『…無一郎様…』
「何?」
『っ?!!』
本当にこの人は気配を消すのがうますぎる。
先程までこの大きすぎる屋敷は私一人だけだったのに。
『あ、えっと?!無一郎様、任務に向かわれたのでは…』
「終わったからここにいるんでしょ?」
左様でございますか…。
無一郎様に言われ乾いた笑いしか出てこなかった。
「…ねぇ、…僕この感情の意味わからないんだけど」
無一郎様は私の髪の毛を一房片手に持ち毛先にキスを1つした。
『えっと…どのような感情ですか?』
近い距離と無一郎様の行動に心臓はドキドキと激しく鼓動を打つ。
「何でだろう…君の事がほっとけない」
『っ…』
期待してもいいのでしょうか?
その言動と行動に。
今まで気づかなかったけど、
この甘く疼くのはきっと貴方様を恋慕したから。
無一郎様は髪の毛にまた、甘い口づけをしたあと、名残惜しそうに手を離した。
「困らせてごめん…今の忘れて」
霞のかかった瞳の奥は、今何を考え映しているのか…
遠ざかっていく背中に手を伸ばそうとしたけれど、その手は空をきった。
今日は無一郎様が刀鍛冶に向かわれる日だ。
既に準備を終えた無一郎様は外で待機してる隠と話してる。
体格からするに多分女の人。
これから無一郎様をおんぶして刀鍛冶に向かうとの事で胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。
その間、無一郎様と密着できるのだから。
女の人におぶられる無一郎様。
ドロリとした感情が心臓を覆いつくすようだ。
これが嫉妬なのだと気づくのに時間はかからなかった。
初めての経験に戸惑うけれども、
隠は仕事だと自分に言い聞かせ、笑顔で見送り、開いた時間は鍛練に費やしたのだった。