第2章 ***
「鏑木先生」
「…?」
その日の放課後…
部活動へ向かう途中だった彼を後ろから呼び止めた。
殆ど話した事のない私に呼ばれて驚いたのか、彼は目を丸くさせている。
「あの…これ今日寄贈されてきた本なんです。人体に関係する内容なんですが…とても興味深かったので、良かったら先生も読まれませんか?」
「え…」
彼に声を掛けたのは何も親切心からじゃない。
昨日の今日で、私を前にした彼がどんな反応をするか見てみたかったからだ。
まぁ恐らく気付きはしないだろうが…
「返却はいつでも構いません」
「あっ、はい…わざわざありがとうございます」
「いえ…それじゃあ私はこれで」
そう頭を下げてその場を去ろうとすると、今度は彼の方が私を呼び止めてきた。
(もしかして…バレた?)
「あの…」
「…はい?」
じっと私の顔を見つめてくる彼。
何か言いたそうな顔だが戸惑っているようにも見える。
「私…まだ仕事が残ってますので」
「あ…」
結局私の方から逃げ出してしまった。
気付かれるはずはない。
女王を演じている時とは見た目が違うし、声色だって変えている。
それでも万一の事を考えて…
(学校で彼と接触するのはしばらく控えよう…)
それからあっという間に1週間が経った。
今私の目の前には鏑木先生がいる。
ただしここは、SMクラブのプレイルームだけれど。
「ふふ…また来たの?」
「……、」
私の予想通り、やはり彼はやって来た。
その手に真っ赤な首輪を持って…
「言い付け通りちゃんと買って来たのね」
「はい…」
「着けてあげるからこっちへ来なさい」
頬を赤く染めながらこちらへ歩を進める彼。
首輪を受け取り、そのしっかりとした太い首に着けてみせる。
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