第2章 ***
(…嘘……でしょ…)
部屋に入ってきた客の姿を見て目を疑った。
何故ならその男は…
(…鏑木先生……?)
私が司書を務めている高校の体育教師だったから。
向こうの反応を見るに、私の正体には気付いていないようだけれど。
普段の地味な私とは正反対なのだから無理もない。
彼とは殆ど話をした事もないし、図書館の司書である私がこんな所で働いているなんて夢にも思わないだろう。
…それにしても意外だ。
見るからに生真面目で、こんな場所とは無縁そうな彼が来るなんて。
(…本当…あの学校は腐ってるのね)
聖職者とも言える者がSMクラブで夜遊び?
まぁここで働いている私に彼を責める権利なんて無いかもしれないが。
「あなた…このお店は初めて?」
「…はい」
「私を指名したって事は…当然"そっち"なのよね?」
「……、」
彼はバツの悪そうな顔で静かに頷いた。
その反応からすると、もしかしたらこういうお店自体初めてなのかもしれない。
(…少し探りを入れてみようかしら)
客の事を知るのも私たちの務めだ。
相手がどんな性格でどんなプレイを望んでいるのか。
「答えられる範囲で良いけど…あなた普段はどんな仕事をしているの?」
「っ…」
当然答えなど分かっているが、ここで彼が正直に話すか嘘をつくかでその人と為りが分かる。
彼は相変わらず気まずそうな顔で口を開いた。
「…高校教師、です」
「…へぇ」
公務員とか会社員とかいくらでも嘘はつけるだろうに、意外にも彼は正直にそう答える。
私に対して誠実なところは気に入った。
「子供たちを正しい道へ導くはずの教師が、こんな所で夜遊びなんてねぇ…」
「……、」
「…でもいいわ。見た目は私好みだし、今夜はたっぷり可愛がってあげる」
.