第2章 ***
彼は今確かに"ご主人様"と呟いた。
まさか…
「…気付いてたの?」
目の前の体を押し返しその顔を見上げる。
彼はバツの悪そうな顔でこくりと静かに頷いた。
「…いつから?」
「……、あなたが俺に本を貸してくれた時です」
「………」
つまり彼が初めてお店を訪れた翌日という事になる。
あの呼び止められた時に「もしかしてバレた?」と危惧はしていたが…
「…よく分かったわね」
「…匂いですよ」
「え…?」
「俺…昔から鼻だけは良くて…。あなたが本を貸してくれた時に香ったシャンプーの匂いで、もしかしたらと思ったんです」
「でも…同じシャンプーを使ってる人間なんて他にもいるでしょう?」
私が使っているシャンプーは市販の物で、何も特別な物じゃない。
それなのに匂いだけでよく確信を持てたものだ。
「半分はただの"勘"だったのかもしれません」
「………」
「あのお店であなたを初めて見た時…俺はあなたに目を奪われました。一目惚れだったんです」
そう言って私への想いをつらつらと紡ぐ彼。
聞いているこちらの方が恥ずかしくなってしまう程に。
「本当は学校でもあなたの事を目で追いたかった…。でもそんな事をしたら、きっと俺は仕事も手につかずあなたに接触したくなってしまう…そう思って我慢してました…」
「………」
「だから…あなたが教頭からあんなセクハラを受けているなんて知らなかったんです…。俺がもっと早く気付いていれば…」
そう悔しそうな顔をする彼の口元にすっと人差し指を当てる。
「…勘違いしないで。私はあんな男に屈するような柔な女じゃない」
「……、」
「でも…そうね。借りを作るのは好きじゃないし…助けてもらったお礼くらいはするわよ?」
「っ…」
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