第3章 番外編
「おや、随分遅かったな」
「………貴方だけ式に来なくて、探し回ったんですよ」
あの時のように汗を額に滲ませたユイが、乱れた息を落ち着かせるように大きく深呼吸をする。俺は特に悪びれもせず、それはすまなかったなと肩を竦めた。
「それで? 俺に何か御用かなチャンピオン。街は君の成人の祝いでお祭り騒ぎだぞ」
俺は待っていたことなんておくびにも出さず、しれっと彼に問いかけた。俺の意地悪に気づいたのだろう。お前が言うのかよと、随分悪くなった口で呟く。
「話はないようなら、お引き取り願うが?」
そう言うと、慌てて謝罪するユイ。そういうところは変わっていないようで、俺は思わず微笑んだ。俺の顔を見て、言葉を詰まらせるユイ。
「………あ……約束を…果たしに来た…」
「約束? ふむ、どんな約束だったか…。このところ、物忘れが激しくてな」
「っ!!!!」
ジロっと赤面させて俺を睨むユイ。俺はニコッと微笑む。すると、観念したように彼は口を開いた。
「成人までに貴方が俺を好きになったら…結婚してくれるって話ですよ」
「おおっ!! そうだったそうだった!!」
わざとらしく手を叩くと、ユイはがしっと俺の腕を掴んだ。力もあの頃よりあり、背もあの頃よりも大分俺と近い。……随分と大きくなったと感慨深くなる。ユイは俺に顔を近づけ、震える声を隠せず俺の目を見る。
「好きだ。一目惚れだった。俺と…結婚して下さい…!!!!」
まぁ、及第点といったところだろう。俺は笑った。目の前の子供は、成人したと言っても、相変わらずこんないい歳したおっさんに熱を帯びた視線を送っている。もっといい女性がいるだろうに、チャンピオンとなって言いよる女性も少なくないと聞くぞ? そう、俺は茶化すように彼に言葉を投げかけた。彼の言葉に嬉しくて堪らない心うちを隠すために。