第1章 kaho様リクエスト
「。」
彼の後ろへ着こうとしたら突如、部屋の奥から聞こえる私の名前を呼ぶ声に、金縛りに掛けられた様に身体が固まった。同時に十刃と、従属官達の視線が一斉に向けられる。背を突き刺す霊圧に全身から嫌な汗が吹き出す。怖い、振り返りたくない。けれど彼は、この城の王だから。私が逆らう事でグリムジョー様にご迷惑を掛けるわけにはいかない。
震える体を鼓舞しようと手をギュッと握り、振り返って無理矢理口角を持ち上げた。
「…はい、藍染様。何か御用でしょうか。」
「そんなに怯える事は無いだろう。こちらへおいで。」
「……分かりました。」
鉛でもぶら下げているんじゃないかという程重い足を持ち上げ、彼の元へ向かおうとした刹那手首を掴まれ思わず止まる。腕を辿って顔を上げればそこには不機嫌を絵に描いたような顔をしたグリムジョー様が、椅子に座り頬杖を付く藍染様を睨んでいる。
「コイツは俺の従属官だ。用なんざねェだろ。」
「…聞こえなかったのか?私は彼女に"おいで"と言ったんだ。君に止める権利など無いよグリムジョー。」
涼しい顔をした藍染様の、私では最早測りきれない霊圧がグリムジョー様へ向けられた。他の十刃の方々も居る中、とんでもなく緊迫した空気が一帯を包む。市丸様だけがニヤニヤしているのが何となく腹が立つ。私は焦ってグリムジョー様の手を解き、両手で握りできる限り笑った。
「…ありがとうございますグリムジョー様。私は大丈夫です。殺されたりなどしませんから。」
「……チッ。」
グリムジョー様は大きく舌打ちをして手を離した。手首に残る体温の名残が寂しい。私は今度こそ踵を返し藍染様の元へ向かった。十刃、そして市丸様達が出て行くと扉はゆっくりと閉まっていく。それがまるで、私達だけが世界から切り離されてしまったみたいでとても恐ろしい。この男と、二人きりだなんて。
「随分とグリムジョーに気に入られているようだね。君にとってはそれが幸せなんだったかな。」
「仰る通りです。グリムジョー様のお傍にいる為ならば私はなんだってします。」
「知っているよ。だからこうして私の言葉に従っているのもね。」
「藍染さ…きゃっ!」
徐に立ち上がった彼に身体を横抱きにされ、思わず悲鳴が零れた。藍染様が歩みを進める度小さな振動が伝わって来る。こうして女扱いされるのが、私はとても苦手だった。