第3章 市丸裏夢
兄は少し…いや、かなり性格が悪い。私より悪い。悪口を言った事がバレれば躾と称して何されるか分かったもんじゃない。私がうんざりした顔でもしていたのか市丸隊長は愉快そうにケラケラ笑う。
不意に彼は足を止めた。何事かと遅れて立ち止まり振り返ると、そっと耳元へ唇が寄せられる。吐息を吹き込む様に囁かれる言葉にぞわりと背が粟立った。
「…今日仕事終わったらボクの家来や。」
「……分かりました。」
「あんま乗り気やないん?」
「昨日もしたばっかじゃないですか…。」
「男の性欲舐めたらアカンよ。」
「処理する方の身にもなってくれませんかね。」
「えぇやん、も気持ち良さそに喘ぐやろ。」
「外でそういう事言うの本当辞めてもらって良いですか。」
わざとだろコイツ。この男。誰かに聞かれたらどうするんだよ。
この人と爛れた関係になったのは、いつからだっけ。仕事合間にこうして声を掛けられては彼の家にひっそりと向かい、身体を重ねる。別に嫌じゃなかった。上手いし、多分身体の相性が良いようで。…そもそも私はこの男が好きだから。
「おもろいモン買うたんよ。の為に。」
「碌でもない物の間違いでは?」
「そう言いなや、絶対気に入ると思うで。」
あぁ…嫌な予感しかしない。
それから隊首室でしっかりみっちり仕事をしている内、いつの間にかとっぷりと日は暮れ夜になった。職務を終えた隊士達は各々執務室から去っていく。かくいう私も、決められた範疇の仕事を終え寮へ戻り死覇装から着物に着替える。約束通り、市丸隊長の邸宅に向かう為に。
「お邪魔します。」
「入ってええよ。」
玄関を勝手に開けると奥から声が聞こえて来た。言われずとも草履を脱ぎ、部屋の中へ向かう。襖を横にスライドさせ、飛び込んで来た光景に目を見張る。市丸隊長は、丁度着物に着替えている最中だったらしく前がはだけて白く華奢な身体がチラリと覗いていた。
「入っていいって言うなら着替え終わっててくれませんかね。」
「しゃあないやろ、ボクさっき帰って来はったばっかやもん。それに、見慣れてるやろ。」
「はぁ…お風呂借りて良いですか?」
「ええよ。……あ、その前にちょっとこっち来や。」
帯を結び終えた市丸隊長にちょいちょいと手招きされ渋々歩み寄る。彼は水を口に含むと、私の手首を掴み力任せに引っ張った。