第2章 平子夢
それから数日。めっきりは五番隊へ顔を出さなくなった。
「……………。」
「隊長。」
「……………………。」
「平子隊長。」
「…何や、惣右介。」
「何、では有りません。書類が一文字も進んでいないのですが?」
惣右介の指摘に顔を書類に落とす。確かにそこは真っ白やった。おっかしいなァ、椅子に座ってから少なからず30分位は経った筈なんやけど。何で仕事進んで無いん?オレ何してたん?
「オレ30分何もせんとボーッとしてたん?」
「その通りです。何か考え事ですか?」
「……あー。」
返す言葉が見当たらず、眉間に力が篭る。どうも本調子とちゃう。イライラしながら後頭部を掻き筆を乱暴に置いて背もたれに身体を預けた。
何で来おへんのや。アレか、1回デートして満足したか?飽きたか。
「…一度外で休まれては。この調子では進みそうも無いので。」
「言いよるなァ。…ま、その通りや。出て来る。」
惣右介の言葉に便乗するのは些か不満もあったが、捗らんのも事実や。オレは椅子から立ち上がり、五番隊隊舎を後にした。
隊舎を出たからといって、特に目的地は無い。ただ歩いている方がまだ頭が働く気ィする。
「なんやねん、ついに諦めたんか。」
別にオレはえぇけど。こうもぱったり来なくなると拍子抜けっちゅーか。寧ろ、静かになってせいせいするわ。仕事も進む……いや、それは現在進行形で止まっとるな。兎に角、が来なくなって困る事はひとつも無い。
目の前の手頃な石を蹴りながら歩いていると、遠くからよく知った声が聞こえて来る。反射的に顔を持ち上げ、目にした光景に足が止まった。
「海燕さーん、これとこっちならどっちがいいと思います?」
「だから俺が知るわけねーだろ。お前が1番良く知ってんだろうが、自分で選べ!」
「知ってるっていっても、何もかも知るわけじゃないんですよ!女の趣味すら知りません!」
「威張りくさんな。」
十三番隊トコの、海燕とだった。店先で楽しそうに笑っとる。
今まで感じた事の無い衝撃に思わず目を見開く。なんやコレ、ごっつイライラするんやけど。何でイライラ解消しに外出て更に腹立つ事起こるん。
「あ、コレなんかどうかな…。」
「良いんじゃねーの?」
「へへ…買ってきます!」
「表情筋ユルユルだなオイ。」