第1章 ◆若返り(三日月宗近)
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その夜、主は本当に三日月の部屋を訪ねた。
彼は仄かな灯りの中、布団の上に座って着流し姿で待っており、やってきた彼女に目をやった。
「…ははは、逃げるかと思っていた」
浴衣姿の彼女は、逃げはしないものの思い詰めるほどの悩ましい表情で立ち尽くしている。
それはそうである。
両想いとはいえそれが判明したのは今日の昼。しかもそれも何気ないただの会話で済まされたものだ。
さっそく今夜にも夜伽をしようなどと、彼女には荷が重すぎる。
「……優しく、して、もらえますか。初めてなので」
「あいわかった」
三日月は手招きし、共に布団の中に入るよう誘導する。
大人しく従った主は彼の隣にまっすぐ仰向けになり、横で肘をついて上から眺めてくる三日月の顔を、ぼうっと見つめた。
(どうすればいいのかな…何をされるんだろう…)
大きな不安と、ほんの少しの期待を胸に、しばらく二人で見つめ合う。
「……主。そんな顔をするな」
さきに笑みをこぼしたのは三日月だった。
そして顔を近づけ、鼻先をすれ違わせると、ゆっくりと口づけていく。
─ちゅ…─
唇が触れあうとそれだけで胸が高鳴った。
それは主も三日月も同じである。
お互いに気持ちを明言せず寄り添ってきた二人は、やっと通じ合った想いに瞳を揺らした。