第1章 ◆若返り(三日月宗近)
五虎退はキラキラの瞳をさらに輝かせ、恥ずかしそうに三日月の膝の近くに腰を下ろすと、虎を抱きながらそこに頭を乗せて横になった。
暖かい陽気のせいか、五虎退はすぐにうとうとと眠り始める。
主の肩と、五虎退の頭。
三日月はそれを催眠術でもかけるかのごとく、ぽん、ぽん、となだめてやる。
その穏やかな時間を、彼はしばらく堪能していた。
──やがて先に、主が目を覚ました。
「ん…」
「起きたか、主」
彼女は三日月の声に意識をはっきりさせると、やっと自分が彼にもたれていたことに気づき、すぐに離れた。
「ごめんなさいっ…私、寝てました? 重かったですよね?」
「うん、俺は構わないぞ。なかなか良い気分だった」
「もう…」
彼は本心のつもりだったが、主は恥ずかしそうに髪を整えた。
そして膝の上で眠っている五虎退に気づくと、優しく頭を撫でてから立ち上がる。
「ありがとうございました三日月さん。疲れがとれました。もう一仕事あるので、部屋に戻りますね」
そう言った彼女だが、まだその顔には疲れが残っている。
「…どれ、たまには俺も仕事とやらを手伝ってやろう」
三日月の珍しい申し出に、主は少し驚き、しかし首を横にふった。
「いえ、大丈夫ですよ。三日月さんに迷惑をかけるわけには…」
「迷惑とは分からんな。ほら俺も部屋へ連れて行け」
「いやいや、そんな…」
三日月は五虎退を虎とともに抱き上げて畳の部屋に寝かせると、本当に金魚のふんのように主の後ろについていく。
彼女は観念し、彼を部屋へと招き入れることにした。