第2章 ◆大切な人(膝丸)
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夜、お風呂と夕餉を終え、もう寝ようと部屋へ向かう。
加州さんは部屋に送ってくれ、おやすみの挨拶をするところまで付き合ってくれた。
「じゃあね、主」
「はい。おやすみなさい」
障子をしめて布団へと向かうと、加州さんと入れ違うようにして、誰かがこちらへやってくる足音が聞こえた。
この足音は……
「主っ」
障子が開いて、膝丸さんが中へ入ってきた。
「え、膝丸さん?」
返事をして振り向くと、膝丸さんはすぐに後ろ手に障子を閉め切り、ずかずかとこちらへ迫ってくる。
すごい剣幕のため私が後ずさりしていくうちに部屋の壁際に追い詰められて、“バン!”と大きな音を立てて両サイドを塞がれた。
「え? あの…?」
大きな音と膝丸さんの迫力に圧倒されて怖くなり、私は思わず彼の内側で縮こまる。
すると膝丸さんは、すれすれまで顔を近付け、
「なぜ俺を避けるっ…!」
思い詰めた表情で、そう言った。
「え…?」
言われた私には覚えがなく、首をかしげた。
別に避けてなんていない。
むしろ、膝丸さんのことを思って色々としていたつもりだったんだけど…。
「俺が何かしたか!? いつも兄者のところに行っていたから怒っているのか!?」
「そ、そんなことは…」
「怒らせたなら謝る! すまなかった! 俺は主が快く送り出してくれているものだと思って、つい…!」
「膝丸さん、あの…」
「しかしいきなり避けるのはやめてくれ…! こんなことをされては、俺は…!」
すると私を無視してひとしきり叫んだ膝丸さんは、今度は唐突に私を抱き締めた。