第2章 プロローグ
学園には入学前に一度来ていたが、そのときは親の車で、しかも前の家からだ。
昨日、越してきたばかりで土地勘もなく、地図アプリと格闘しながら何とか辿り着いた。
職員室は、どこだろうか。
前回、来た際に理緒らが通されたのは理事長室の横に設けられた応接室だった。
生徒は、まばらながらいるのだが、声をかけることは避けたい。そもそもかける声がないのだ。
辺りを見回しながら、一階を歩いていると、ジャージ姿の男の人と出くわした。
制服のジャージとは違うこと、その風貌から教師だろうと理緒は判断した。
その判断は正しく、後に知ることになるが彼は体育教師の冨岡先生──理緒の担任である。
「天春」
名前を呼ばれ、返事をできずにいれば、そのまま沈黙が続く。
「……天春」
もう一度、呼ばれるが、理緒はどうすることもできず冨岡先生を見る。
「天春」
再度、呼ばれ、首を傾げる。
「お前は、天春か」
……何度も苗字を呼んでいたのは、私かどうかを確認するためだったのだろうか。
不思議に思いつつも理緒は、こくりと頷いた。
「そうか、天春か。職員室はこっちだ」
独特の空気を放つ冨岡先生に連れられ、理緒は職員室へ足を運んだ。