第5章 一の裏は六
身体中が、悲鳴をあげている。
あちこちが、兎にも角にも痛かった。
痛みにより意識が引き戻され、理緒は目を開いた。
視界には白い天井が広がっている。
理緒はベッドの上に寝転がっていて、布団がかけられていることを感じ取る。
ここは、保健室だろう。
「目が覚めましたか」
儚げで、それでいて芯のある声が聞こえた。
声のしたほうへ顔を向けようとすると、身体に電流が流れたのかと錯覚するような痛みが走った。
理緒は苦痛に顔が歪ませる。
「無理はなさらないで」
その声に、ゆっくりと息を整えた。
痛みは少しずつ引いていく。
「大丈夫……ではありませんね」
頷こうにも、痛みで身動きはとれない。
意思疎通をとるための手段が封じられ、いつも以上に歯がゆい思いをする。
「体育の授業中に倒れたのを、覚えていますか?」
そう聞かれ、理緒は思い出した。
不思議なほどに身体が軽くて、早く走れたこと。
それを見た伊之助が怒っていたこと。
炭治郎が頭突きをして伊之助を止めたこと。
気絶した伊之助を気にしなくていいと善逸が言っていたこと。
そして──、そこからの記憶がないことを。
そんな理緒に、声の主はこうなってしまった原因を説明をする。
「本来持っている力を、全て出してしまった場合、人の身体は負荷が大きくて耐えきれません。
それ故に、常にリミッターがかかった状態になっているんです。
ですが、貴女はそれを一時的に外してしまった」
それを聞いて、理緒は唐突に理解した。
「動けないのは、その反動です」
つまり全身が痛いのは、ひどい筋肉痛なのだと。
「休めば治りますが、今日一日で治すのは難しいので、点滴を打つことで回復を早めます」
痛みが少しでも早くとれるのならば、そのほうがいい。
頷けない理緒は、ただ何の反応もせずに受け入れることにした。
「そのまま寝ていてくださいね」
そう言う声が耳から入ってくると、なんだか妙に心地よくて、陽だまりの中にいるような気分になった。
そのおかげか、理緒の意識は、ふわりと浮かんで、そのままゆったりと沈んでいった。