第5章 一の裏は六
その"異変"に、理緒はすぐに気がついた。
いまだかつて経験したことがないほど、身体がとても軽いのだ。
重力が半分になった?
と、あり得もしないことを考えてしまう。
伊之助が何か後ろから叫んでいたが、耳元では風を切る音がしていて、うまく聞き取れない。
待って、
伊之助が後ろから叫んで──?
伊之助はトラックを何周も走り込んで平然としているような怪物だ。
男子と女子の体力や筋力差は当然で、理緒は平均的な女子である。
それなのに、伊之助よりも早く走っている。
その事実に、驚愕している間に走り終えていた。
なんで、どういうこと?
すぐに続いてゴールした伊之助が、理緒の傍へやってきた。
「テメェ!!呼吸を使うなんて卑怯じゃねェか!!!」
怒り浸透に発した様子で理緒に詰め寄る。
理緒は、呼吸?と首を傾げるが、それでは伊之助には通じない。
「伊之助!落ち着け!」
炭治郎がすぐさま理緒と伊之助の仲介に入る。
「止めるな!権八郎!!」
「炭治郎だ!いい加減、覚えろ!」
「うるせェ!!」
止まらない伊之助に対して、炭治郎は仕方がないと頭突きを食らわせた。
鐘をつくような鈍い音が響く。
伊之助は、再び気絶──、もとい眠りについた。
「あれもいつものことだから、気にしないでいいよ」
善逸が心配そうに見守る理緒に話しかける。
理緒はそう言う善逸を見ようとして──、
見ることは叶わなかった。
視界がぐるぐると回り、そのまま目をつぶって倒れたからだ。