第5章 一の裏は六
「猪突猛進!!」
そう叫びながら、先頭を突っ走る男子がいる。
理緒は彼の名をすでに覚えていた。
嘴平伊之助だ。
三時間目の騎馬戦で、炭治郎に勝負を挑んだのはいいが、炭治郎に頭突きをされてから、授業が終わるまで寝ていた。
ほとんど気絶に近かったように思えた。
心配したものの「ああ。あれはいつものことだから、気にしないでいいよ」と善逸が言っていた。
それを聞いた理緒は、いつものことなのか、と驚きと呆れの感情がせめぎ合うという初めての経験をした。
起きてからの伊之助は、ぴんぴんしていて、今では物凄い勢いで走っている。
本当に心配する必要はなかったらしい。
そんなことを思い出しながら考えていると、
「理緒は、持久力があるんだな」
ペースを落とした炭治郎と一緒になった。
これでも体力には自信がある。
それでも、いつまで走らされるのかわからないのは苦痛だ。
「あまり無理はするなよ。冨岡先生の気分次第でずっと走らされる可能性もあるからな」
その言葉に、絶句した。
確かに、みんな走るのが遅いと思っていた。
善逸なんて、始めからペースを落としてすぐに最後尾になり、冨岡先生に笛を吹かれながら注意されていた。
今は後方でだらだらと走っている。
一段と長い笛の音が響く。
「ふう……。終わったな。お疲れさま。今日は早いほうだったな」
息を切らせた彼女に、炭治郎は話しかける。
これで、早いほう……?
それに炭治郎は呼吸が乱れていない。化け物か。
驚く理緒を余所に、
「俺は!強い!!」
そう叫ぶ伊之助。伊之助も怪物だ。
「はああああ……。もうやだ疲れたよおお……」
そう項垂れる善逸。
一般人がいることに、理緒は安堵した。