第5章 一の裏は六
突如、始まった騎馬戦を、理緒は茫然自失で体で眺めることしかできなかった。
先ほどまでの、この学園でならばと思ったことを取り消したい。
それが三時間目の出来事であった。
四時間目は体育だ。
男女に分かれて、着替える。
炭治郎と離れてしまうことに一抹の不安を覚えるが、依存するわけにもいかない。
周りはさっきの一件もあってか、遠巻きに見ているだけで関わろうとはしてこない。
このまま日が経てば、関わることのないまま溶け込めるだろう。
周囲の様子からグラウンドが授業の場所であると察する。
時代錯誤なブルマに着替え、運動靴に履き替えてから、校庭へ向かう。
そこには、すでに男子もいた。
「あ、理緒」
「理緒ちゃーん!!」
炭治郎と善逸に呼ばれる。
だらしがない笑顔を浮かべながら善逸がぶんぶん手を振っているので、理緒は小さく手を振り返した。
「炭治郎!!今の見たか!?振り返してくれた!!」
「そりゃあ手を振られたら、振り返すだろう」
「お前は!またそうやって!!すーぐ否定する!!!」
「否定も何も……」
やいやい言っているのが離れていても、自然と聞こえてきていたが、遮るようにチャイムが鳴る。
冨岡先生が現れ、集合がかかった。
男子も女子も、冨岡先生の前へ向かう。
全員が集まったのを見て、冨岡先生は口を開く。
「今日は、走り込みをしてから、50メートル走をする」
走ってばっかだな。
というのが彼女の率直な意見だ。
もう一つ、男女合同でやるのだろうか、という疑問が芽生えたが、他に先生が現れる様子はないということは一緒なのだろう。
笛の音が鳴り、石灰の白線で作られたトラックの中を、走る。
走る、走る、はしる、疲れてきた。
そういえば、何周走るかを冨岡先生は言っていなかった。そのことに理緒は気づいて、なんとも言えない薄暗い気持ちになる。
これ、いつまで続くんだろうか……。
冨岡先生は笛を吹くばかりで、何も言わない。